下水君100周年記念企画 ~ 私設下水道施設檢査證章標、他
私設下水道施設檢査證章標、他
下水君100周年記念企画の第16回。今回は下を向いていると見つからない下水君、玄関や門に貼られる検査済証や届出済証を取り上げる。
筆者の調査によると、東京区部の下水道に関するこの手の検査済証・届出済証は、下水道条例の改正に伴って3回、東京都シンボルマーク制定によるデザイン変更が1回と計4回の大きな変更があり、細かなデザインの違いを含めると少なくとも9種類は存在するようだ。先にその分類を示しておく。(日付は関連条例・細則の告示日)
- 私設下水道施設檢査證章標(大正11年6月21日~)
- 東京都私設下水道章標(昭和20年11月?~)
- 排水設備等検査済証(昭和34年12月28日~、2種類)
- 排水設備届出済証(昭和52年3月~、下水君3種類)
- 排水設備届出済証(平成元年6月1日~、シンボルマーク2種類)
最初に掲載した写真は最も初期のもので、名称は「私設下水道施設檢査證章標」という(正確には私設下水道施設檢査證と共に交付される章標)。デザインは、最初の下水道条例が施行された日(大正11年6月21日)の東京市公報に掲載されている。公報の一部はこちらで確認できる。
こちらは同公報の一枚目のページ。東京市長が男爵の後藤新平となっている。
続いて「東京都私設下水道章標」。右横書きになっている。良い状態のものが少ないので写真を2枚掲載しているが、様式は全く同じものだ。東京都は昭和18年7月に成立しているのでこの章標もそこまで遡ることができるのかもしれないが、確認できた範囲では下水道条例の改正は昭和20年11月の告示が最も古かったので、この章標も同時期に制定されたものではないかと想像している。ただし、昭和20年11月告示の下水道条例の内容はまだ確認できていないので明言はできない。下水道条例はその後昭和26年12月22日と昭和34年12月28日の告示で全部改正されており、その後は部分改正を繰り返して現在の下水道条例に繋がっている。ちなみに確認できた昭和26年告示の下水道条例で私設下水道に関連する条文は以下だが、章標に関する記述は無かった。
東京都下水道条例(昭和26年12月22日 東京都条例第146号)
(下水道の使用の開始、中止、廃止の届出)
第十二条
私設下水道その他知事が定める施設により下水道の使用を開始し、中止し又は廃止しようとするときは、使用者、義務者又は総代人から知事に届け出なければならない。
こちらは「排水設備等検査済証」。右と左とでは、微妙に文字の大きさと字間が異なっている。また、これまでプレートを釘で固定する方式だったものが、シールになっている。
この「検査済証」については、昭和34年の地方自治法改正を受けて全部改正された下水道条例に明記されている。
東京都下水道条例(昭和34年12月28日 東京都条例第89号)
(排水設備等の工事の検査)
第六条
排水設備等の新設等を行つた者は、その工事を完了したときは、管理者の定めるところにより、工事の完了した日から五日以内にその旨を届け出て検査を受けなければならない。
2 前項の検査に合格したときは、管理者は、当該排水設備等の新設等を行つた者に対し検査済証を交付する。
というわけで、「排水設備等検査済証」は昭和34年以降のものであることは確かなようだ。
検査済証・届出済証の多くは民家の玄関に貼られていることが多く、撮影に関してはマンホールの蓋以上に気を使う。家主さんがたまたま外に居れば一声かけるのだが、わざわざチャイムを押して撮らせてくれというのも変だし、結局人目を忍んで遠くから撮影することが多く、こんな写真ばっかりだ。
ともかく、これには「排水設備届出済証」と書かれている。「検査済証」から「届出済証」と名前を変えている。上部には四角い枠の中に「北二」と書かれているが、これは地区名を示しているようだ。
排水設備に関しては、昭和51年5月の下水道法改正を受けた昭和52年3月告示の下水道条例の部分改正で、その検査・届出の方法が大きく変わっており、「検査済証」から「届出済証」への変更もこの改正によるものだと思われる。この改正では、これまで工事後に検査を行っていた排水設備に関して、新設・変更の計画を予め届け出て、工事の事前チェックを行うようになっている。
同じく「排水設備届出済証」。中央にシリアルナンバーを記入できるようになっている。この画像では画像処理により番号部分を消しているが、実際には5桁の番号が記入されている。さらに右の届出済証には、左右上部に「東京都 下水道局」の文字が入っている。
そしてこちらが現行の「排水設備届出済証」。下水君が平成元年6月1日に告示されたシンボルマークに変更されている。シンボルマークの制定により、これまで都章を使っていたものは原則このシンボルマークに置き換えるということになったので、それを受けて「届出済証」の下水君もシンボルマークに置き換わったのだと思われる。このデザインのシールは下水道局のリーフレットでも確認できる(2014/06/20 追記:リンク先のPDFが更新されてしまったようなので、執筆時に掲載されていたPDFの画像を一部引用しておく)。また、左は白地のシールだが、右は金属光沢のシールになっている。
最後に、そもそもこれら検査済証や届出済証はどういった場面(建物)で使われるのかについてだが、下水道局のページに排水設備の工事届出の要否に関する記述がある。これによると、新築や排水設備を含む改築を行った場合はほぼ全て該当しそうだ。町を歩いて探してみてもあまり見当たらないのは、屋内の排水設備に貼られている場合や、集合住宅であれば管理人室に貼られている場合があること、さらに貼り忘れなどいろいろ考えられるが、実際のところはよくわからない。
都内区部に在住している方は、家のどこかにこのシールがあるかどうか探してみていただきたい。そしてもし今回の記事に掲載されていない検査済証・届出済証があったら是非ご一報を。
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2012 年 8 月 20 日 6:06 AM
仙台市役所編集『仙台市下水道誌』(1937年)の中で、東京市の検査證章標を参考にした(というよりパクった)、昭和5年に制定された仙台市の章標と吏員章を見つけて、思わず笑ってしまいました。
これからは、上も向いて歩こうと思います。
2012 年 8 月 20 日 8:42 PM
面白いですね。微妙にデザインや名称を変えているところも。
こうなると他の自治体の例も探してみたくなります。