下水君100周年記念企画 ~ 自働洗滌槽


東京都

自働洗滌槽
 
下水君100周年記念企画の第11回。今回は自働洗滌槽を取り上げる。写真は鍵穴以外穴の開いていない「自働洗滌槽」と書かれた2枚一組の蓋。
 
穴を懐中電灯で照らして覗き込んでみたこともあるのだが、深いせいなのか埋められているのか、中の様子を確認することはできなかった。
 
 
 

東京都

こちらは穴がたくさん開いており、「自働洗滌槽」の文字の無い蓋。最初の蓋と同じく2枚一組の蓋だ。
 
 
 

自働洗滌槽のある風景

京橋駅近く、自働洗滌槽蓋のある風景。自働洗滌槽の蓋はこのように2枚一組の無孔蓋と、同じく2枚一組の有孔蓋計4枚の蓋で構成されるのが基本のようだ。
 
この周辺の下水道は関東大震災以降の第三期工事で敷設されているようなので、この蓋も大正12年~昭和初期に東京市下水課、或いは東京市土木局下水課によって設置されたはずだ。背後に建っている明治屋本社ビルは昭和8年竣工なので、この組み合わせの風景はそれ以来、戦争をくぐり抜け変わっていないことになる。
 
 
 

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自働洗滌槽の蓋は、細かい違いを挙げるとキリが無い。ちょっとした字体の違いや、中央の下水君のデザインの違いなど、蓋ごとに違うのではないのかとさえ思われる。今回は細かい相違点についてはこれ以上着目せず、その存在意義と仕組みについて少し掘り下げて考えてみたいと思う。
 
 
 
自働洗滌槽についての記述や図面のある資料は、筆者の集めた限りでは以下のものがある。

  • 水道及下水道(明治43年、山岡元一)
  • 東京市下水道沿革誌(大正3年、東京市下水改良事務所、増補版)
  • 東京市下水道詳細圖 31,36 (大正4年、東京市下水改良事務所)
  • 大東京市民ノ常識(大正10年、大東京社編)
  • 最近下水道(大正12年、森慶三郎)
  • 東京市下水道改良實施調査報告書(大正13年、東京市下水課)
  • 上下水道設計図集(昭和2年、中島鋭治『日本水道史』附図)
  • 上下水道設計図集(昭和3年、水道研究會)
  • 東京市下水道設計標準圖(昭和4年、東京市役所)
  • 下水工學(昭和6年、茂庭忠次郎)
  • 東京市下水道設計標準圖(昭和8年?、東京市役所)

このうち、水道及下水道、最近下水道、大東京市民ノ常識、東京市下水道改良實施調査報告書、下水工學の5点の資料には、設置目的と動作の基本的な原理が書かれている。それらによると、自動洗浄装置は「管路の起点に設置し、上水を用いて一定時間毎に自動的に下水管を掃除するもので、水の流出を開始する自動的な動作はサイフォン作用と水の自重を応用したもの」とのことだ。
 
「最近下水道」を除いたそれぞれの資料には図が載っているので、以下の表にその内容を纏めてみた。
 

自働洗滌槽の資料
資料名 発行年 装置の名称 蓋の名称 その他
水道及下水道 明治43 自動瀉水槽 [記載なし] 「小下水渠ニ於テ米國ニ多く用ユル自動瀉水槽ハ・・・」との記載
東京市下水道沿革誌
(増補版)
大正3 甲種自働洗滌槽 [記載なし] 後述の排気管、排水鐘、排水管が省略された構造。水槽や射水鐘、射水管に水面の描写がある
下水道詳細圖 大正4 第壹類自働洗滌槽
甲種・乙種・丙種
甲種(無孔)
乙種(有孔)
サイフォン装置部分は甲種・乙種・丙種全て同じで、水槽の大きさや構造により種類を分けている。また、サイフォン装置各部の名称も記載されている
大東京市民ノ常識 大正10 自働洗滌槽 自働洗滌槽鐵蓋 掲載図は蓋の図のみだが、簡単な機能説明がある
下水道改良實施
調査報告書
大正13 自働洗滌槽 甲種(無孔)
乙種(有孔)
下水道詳細圖の第壹類乙種の装置に相当
上下水道設計図集 昭和2 下水自働洗滌槽 [記載なし] 下水道詳細圖の第壹類乙種の装置に相当
上下水道設計図集 昭和3 下水自働洗滌槽 [記載なし] 内容は昭和2年発行の上下水道設計図集と同じ
下水道設計標準圖 昭和4 (甲)自働洗滌槽
(乙)自働洗滌槽
鐵蓋(無孔)
鐵蓋(有孔)
甲種は下水道詳細圖の第壹類乙種の装置に相当、乙種はサイフォン装置を簡略化(機能化?)した形状の装置
下水工學 昭和6 自働洗滌槽 [記載なし] 下水道改良實施調査報告書と同じ図
下水道設計標準圖 昭和8? 自働洗滌槽 鐵蓋(無孔)
鐵蓋(有孔)
昭和4年の下水道設計標準圖にある乙種の装置のみ掲載されており、甲・乙の区別は無い

 
このように、装置の名称や蓋の名称は資料ごと(年代ごと)に変遷しており、また、甲種・乙種の名称は装置自体の種類と蓋の種類の両方に用いられており、ややこしい。
 
 
 

下水道台帳

こちらは蓋のある風景(本記事3枚目の写真)を撮影した京橋駅近くの下水道台帳の図で、中央にある記号が自働洗滌槽(穴あき)の蓋の位置を示している。資料の解説にあったように、下水管の起点に設置されていることがわかる。
 
なお、この記号は自動洗浄槽ではなく矩形人孔を示しており、このマンホールは現在自動洗浄槽としては使われていないらしいことがわかる。余談だが、サイフォン式の自動洗浄槽は都内に二つしか残っておらず、そのうち一つの蓋が最近新しいものに取り替えられたとのことだ。(Twitter: @kokutetsu1987)
 
 
 

東京市下水道詳細圖(東京市下水改良事務所)

東京市下水道(東京市下水改良事務所)

東京市下水道詳細圖に記載されている、甲種の蓋と乙種の蓋。蓋について甲種・乙種と記載しているのは東京市下水道詳細圖と東京市下水道改良實施調査報告書のみで、それ以降の設計標準圖では無孔・有孔と呼び分けている。
 
 
 

東京市下水道(東京市下水改良事務所)

排氣管の図。東京市下水道詳細圖にはサイフォン装置部分の名称(排気管、排水鐘、射水鐘など)が書かれており、これは装置の動作を想像するのに非常に役立つ。
 
 
 

下水道設計標準圖

こちらは昭和4年の下水道設計標準圖にある「(甲)自働洗滌槽」の断面図。この図から蓋の下の構造を確認することができる。上部に蓋が2枚あるが、左側の蓋が無孔の蓋で、右側の蓋が有孔の蓋にあたる。それぞれの蓋の下には大きな空間があり、左側は大きな水槽になっていて、右側は下水管へ繋がっている。一定時間毎に左側の水槽に溜まった水が一気に右側の下水管へ流れ込み、管路を掃除するわけだ。なお、左側の蓋が無孔になっているのは、小石やゴミなどが落ちてサイフォン装置が詰まるのを防ぐためではないかと想像される。
 
東京市下水道詳細圖によれば、上図で装置の左にあるのが「排水鐘」、中間にあるのが「射水鐘」、排水鐘と射水鐘とを繋ぐ管が「排水管」で、射水鐘から伸びる細い管が「排気管」ということだ。なお、手持ちの資料に名称の記載は無いが、射水鐘から地下を潜って隣の下水管へ続く太い管を、今後の説明のため「射水管」としておく。
 
 
 

下水道設計標準圖

こちらは同じく昭和4年の下水道設計標準圖にある「(乙)自働洗滌槽」の図。排気管と排水鐘、排水管が省略され、射水管の形状が機能的な形状になっている。昭和8年の下水道設計の設計変更後は、このタイプの自働洗滌槽のみが設置されたようだ。
 
 
 

下水道設計標準圖

下水道設計標準圖には、上水道の蛇口と左右の空間を繋ぐパイプも描かれている。パイプは左の水槽に水が溜まりすぎた際に右の下水管へその水を流す安全装置だと思われる。
 
手持ちの資料が東京市下水道改良實施調査報告書のみだったときに、何度かこの装置の仕組みを考えたことがあったのだが、図が小さく、水がどこから出てくるのかもわからず、各部の役割もわからなかったため、仕組みを完全に理解するには至らなかった。だが今回はそれらの謎も解けたので、その仕組みもほぼ理解できたと思う。
 
 
 
それでは以下、その仕組みを解説してみる。
 

自働洗滌槽のサイクル

サイクルの最初の状態。なお、排水鐘の下端は射水鐘の下端よりも少し低い位置にあり、水槽の水面は排水鐘の下端の高さと同じ位置にある。射水鐘は外気と通じているので、水面にかかる圧力は全て同じで、大気圧に等しい。また、排気管は上端で栓がされているものとする(理由は最後に説明)。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

水槽の水位が少し上がった状態。濃い青の部分が増えた分の水を表している。この段階で水槽の水面は射水鐘の下端に到達し、これ以降ピンク色で示した管内の空気は外気と遮断されることになる。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

さらに水槽の水位が上がった状態。上の赤い矢印の高低差分だけ水圧が発生するので、管内の空気は射水管に溜まった水を押し出し、少量の水が下水管へ流れ込む。この段階では、射水鐘内の水面にかかる圧力と射水管内の水面にかかる圧力とが釣り合っている。すなわち、上の赤い矢印と同じ分だけ、射水管内の水面にも高低差が生じている。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

ギリギリまで水位が上がった状態。これ以上水位が上がると射水鐘内の空気が下水管側へ漏れ出すことになる。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

射水鐘内の空気が下水管側へ漏れ出した状態。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

空気が漏れると、その体積分だけ射水管の水は減少する。すると、水圧のバランスは崩れ、赤い矢印の高低差分の水槽内の水が射水鐘へ流れ込むことになる。その量は射水管の断面積と水槽の水面の面積の比になっており、計算すると、漏れ出した空気の約90倍の体積の水が一気に射水鐘内へ流れ込むことがわかる。(水槽の水面の面積は3尺×6尺、射水管の直径は0.502尺)
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

大量の水が射水鐘に流れ込み、管内の空気を巻き込んで下水管に流れ込んでいる状態。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

やや落ち着いてきた状態。この段階ではサイフォンの原理によって射水鐘と排水鐘を通して水槽内の水が下水管側へ流れ込んでいる。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

水槽の水面が射水鐘の下端まで下がり、射水鐘内に空気が入り込んだ状態。水槽の水面はまだ排水鐘の下端に達していないので、サイフォンの原理により排水鐘・排水管を通して水槽内の水が下水管側へ流れている。排水鐘と排水管の存在意義は、このサイクルで射水鐘の中の水を完全に排水させ、中に空気を送り込むことだと思われる。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

水槽の水面が排水鐘の下端まで下がり、排水鐘・排水管内に空気が入り込んだ状態。これはサイクルの最初の状態だ。
 
 
以上が謎だった自働洗滌槽の動作の仕組みだ。説明が下手だったらごめんなさい。わからない人は置いていきます。
 
 
 

自働洗滌槽のサイクル

なお、排気管に栓をしない状態だったらどうなるかというと、排気管を通じて射水鐘内の空気と外気とは通じた状態になるので、水面にかかる圧力は全て等しく大気圧となり、この図の状態で定常状態となる。すなわち、蛇口から出たのと同じ量の水が下水管側へ流れる状態になる。従って、大量の水を一定時間毎に流す際には、排気管には栓がされているはずだ。
 
排気管は、自働洗滌槽のメンテナンスをする際に水槽の水を一旦排出するためのスイッチの役割をしているのだと思われる。
 
 
以上、何か誤りがあったらご指摘いただきたい。
 
 
 
関連リンク
  ●白汚零 写真展「虚」(駅からマンホール:2013/10/24)
  ●下水君100周年記念企画01 ~ 東京市型鉄蓋
  ●下水君100周年記念企画02 ~ 日之出水道機器株式会社
  ●下水君100周年記念企画03 ~ 鉄蓋工業株式会社
  ●下水君100周年記念企画04 ~ 変則東京市型
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