送水口ウォーク・後編
送水口ウォーク・後編
春分の日に開催された送水口ウォークのレポート最終回(前編・中編)。写真は日本橋髙島屋の送水口。中編でぐりぐり写真にした送水口とは反対側の面に設置されている送水口で、こちらには「連結送水管」と書かれたプレートが剥がれずに残っている。
中編にも追記したが、この送水口に付いているマークについて、ここではないだろうかという会社に畏れ多くもメールで直接問い合わせてみたところ、新橋2丁目の㈱村上製作所さんの製品であることが判明した。創業は昭和10年で、水口を自由に回転できる蛇口(上に向けて直接水が飲めるような蛇口)の考案者でもあるらしい(村上式自在水栓)。同じマークが入った貴重な資料も頂いてしまった。感謝感激だ。
建設省(現 国土交通省)
周辺の道路では、建設省のマークが入った大きい蓋が目に留まった。「建設省・共同溝」とある。
送水口ウォークでは立ち寄らなかったが、日本橋駅の出口、髙島屋地下入口の脇に、その共同溝の覗き窓がある。
案内板によると日本橋室町3丁目から日本橋川を越え、京橋3丁目まで続いているのだそうだ。実を言うと髙島屋だけではなく三越の地下にも同様の覗き窓があったのだが、残念なことに改修工事で無くなってしまった。
他に同じ中央通りの少し先、銀座の地下には銀座共同溝があり、これと同様の覗き窓が松屋銀座本店の地下に現存する。銀座共同溝は昭和43年、日本橋共同溝は昭和47年の完成だが、この頃のデパートは挙って共同溝の覗き窓を設置していたことになる。
東京府東京市(現 東京都区部)
髙島屋周辺で見ておくべき蓋として、この自働洗滌槽の蓋も忘れてはならない。有孔蓋(上)と無孔蓋(下)とで構成され、「自働洗滌槽」の文字が入る無孔蓋の下には大きな水槽と装置とが設置されている(現存するかどうかは不明、台帳上は矩形人孔)。内部構造と仕組みについてはこちらの記事を参照されたし。
ただこの蓋は髙島屋脇のタクシー乗り場に続く道にあるため、常にタクシーが列をなしており、髙島屋の営業時間内にその姿を確認することが大変難しい。先に掲載した蓋の写真は、早朝、開店前に撮影したもので、タクシーも人通りも無かったので背伸びしたりガードパイプによじ登ったりと頑張り、2枚の蓋を真上から1枚の写真に収めることができた。上の写真は営業時間内だが奇跡的にタクシーの列が途絶えた瞬間に撮影した。このあとすぐタクシーがやってきてこの蓋をまた隠してしまった。
通りの反対側、新日本橋ビルディングの採水口(手前)と送水口(奥)。送水口は地上50cm以上1m未満の位置に設置することになっているのだが、この送水口は頭の部分がギリギリ50cmあるかどうかの高さ。個性的な送水口とも言える。チェーンロックで蓋の鎖を繋ぎ止めている。
その新日本橋ビルディングの定礎。「昭和丗五年五月」と書かれている。「丗」は「三十」のことなので昭和35年5月と読めるのだが、疑問が残る。Ayaさんによると、スタンド型という送水口の形状から昭和35年とは考えにくく、昭和45年頃であれば納得がゆくとのことだった。賃貸オフィス情報サイトでも竣工は1960年(昭和35年)11月とされているので、建物自体は昭和35年のもので間違いなさそうだ。とすると、このビルの送水口は後日更新されたものか、非常に初期のスタンド型送水口ということになる。
日本橋通りビルの送水口。錆び具合のせいか金属なのに柔らかい質感。ドラえもんが金属でできているのならこんな感じになるのではなかろうか。
それはともかく注目すべきは「サイアミーズコネクシヨン」の表記。中編にも「サイヤミーズコネクシヨン」が出てきたが、サイヤミーズ(Siamese)とは「シャムの」という意味で、シャム双生児から「双口」の連想でこう呼ばれているという。しかし世の中には単口なのに「サイアミーズコネクシヨン」と表記された送水口も存在するそうで、本来の「双口」の意味がどこかで「送水口」そのものを指す言葉になってしまったのではないかとのことだった。
外蛇口とのコラボ。外蛇口だけではなく、建物が送水口に合わせて切り取られていたり、外れた蓋が下に置かれていたり、昔はしっかりした蓋と繋がっていたであろう鎖が所在なげにぶら下がっていたり、ペットボトルを利用して防水処理?されたコンセントがあったりなど、実に見どころが多い。生活感溢れる送水口だ。
手書きの送水口プレート。木でできた何かの箱の、蓋の部分を利用しているようだ。「送」の字が二点しんにょうだったら尚良し。
頭が平らなスタンド型の送水口は物を置きやすく、空き缶や落し物など様々な物が置かれていることがあるという。送水口愛好家の間では「お供え物」と表現するそうで、写真は自転車の鍵が「お供え」されている様子。ずいぶん前からこの状態なのだそうだ。
美しい単口送水口に片思いする散水栓の図。
露出Y型、文字盤だいぶ斜め。
別角度から。送水口は3次元的に楽しめる。「升に『KS』」の屋号が見えるが、これは東京都墨田区緑4丁目に所在した岸本産業㈱の製品ということらしい。戦前、昭和16年の創業で、このマークの入った送水口は多数現存しているのだが、残念ながら会社は2001年~2004年のどこかで消滅してしまったようだ。
でも横から見ると板だけだった。こちらは㈱横井製作所㈱立売堀製作所の製品とのことだ*。同社製品はこのタイプの施工が多いとか。
交差する送水口。手前のスタンド型送水口は日本橋MMビル、奥の埋設型だけど露出している送水口は八重洲中央ビルのもの。ここでの注目点は現役の送水口ではなく遺構となった送水口だ。
スタンド型送水口と何か(採水口?)の遺構が並んでいる。踏んだら祟られるかも。
高い建物が多いので送水口が次から次に出てくる。これは折角建物にカッターを入れたのにちょっとずれているのが悲しい。
こちらは饂飩屋さんの外装に合わせて綺麗に化粧された送水口。
でも本来壁に打ち込まれるはずの金物がそのまま放置されている。お茶目系?
縦に4つ並ぶ送水口。こちらも箱に綺麗に納められている。
遂に今回の送水口ウォーク最後の物件。ブリヂストン本社ビルの送水口で、Ayaさん曰く「日本の至宝」。手前の露出Y型の送水口は「SIAMESE CONNECTION」、奥の採水口は「WALL HYDRANT」と表記されている。さらに奥には壁埋設型のスプリンクラー送水口も設置されている。「升に『CEC』」の屋号が入っているが、これは㈱建設工業社の製品とのことだ。建設工業社は大正10年創業の老舗だ。
色合いといい形状といい、何とも素敵だ。どこかで見たことがあるような気がしたのだが、キングジョーかな?。(ぐりぐり写真: 写真にマウスカーソルを乗せると動かせる)
というわけで、前編・中編と続いた送水口ウォークのレポートも、この「日本の至宝」をもって最後となる。日本橋周辺は何度も歩いたはずなのに、送水口は全くと言っていいほど目に入っていなかったことを痛感した。逆に、筆者が日本橋周辺で街歩きをやるのであれば必ず盛り込むであろう見所には殆ど触れずに終了した。それでいて非常に濃い街歩きができるのだから、街歩きは本当に奥が深い。今後はより多面的に街を見ることができそうだ。
マンホール蓋と送水口、観察・鑑賞するうえでその違いを挙げるとするなら、送水口は3次元的な鑑賞ができ、さらに建物毎に個性があるので同じ街の一区画でも様々な種類の物件を一度に見ることができる点だろうか。マンホール蓋は、同じ用途であれば自治体単位で基本的に同じ形をしているので、少し歩いただけで新しい発見はそうそう出てこない。
副作用として、丸が二つあると送水口に見える病に罹患してしまったようだ。これも送水口に見えてしまう。丸い標識の影や水溜りがマンホールの蓋に見えてしまう病気と似ている。
送水口ウォークのレポートは以上だが、余談編に続く予定。
関連リンク
●送水口ウォーク・前編(駅からマンホール:2014/03/30)
●送水口ウォーク・中編(駅からマンホール:2014/04/10)
●消防車特集(余談編1)(駅からマンホール:2014/05/19)
●地下式送水口特集(余談編2)(駅からマンホール:2014/06/13)
●送水口倶楽部さん
●路上散歩備忘録さん 2
●送水口ウォーク まとめ(togetter)
2014 年 4 月 22 日 3:10 AM
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2014 年 4 月 23 日 1:26 PM
板付きの送水口について、Ayaさんよりご指摘いただき、横井製作所さんではなく立売堀製作所さんの製品とのことでしたので修正しました。「I.S」のロゴが目印なのだそうです。