送水口ウォーク・前編


送水口ウォーク・前編

送水口ウォーク・前編
 
去る春分の日に「送水口ウォーク」なる魅惑的な街歩きが日本橋で実施された。日本橋髙島屋でマンホールの蓋担当講師を務めている筆者としては何を置いても参加しなければならないのだが、滑り込みで何とか申し込みをさせていただいた。主催者は第5回マンホールナイトの異文化交流枠で発表を行ってくださった、送水口倶楽部のAyaさんだ。
 
タイトルが「前編」となっているが、中編後編余談編1余談編2と続く予定だ。頑張らねば。
 
 
 

坂本町公園

集合場所の坂本町公園。奥に見えるのは阪本小学校。阪本小学校の歴史は古く、明治5年の学制公布により翌年の明治6年に開校した小学校で、当時は「第一大学区第一中学区第一番小学阪本学校」と「一、一、一」を冠していた。現在の校舎は関東大震災後の昭和3年に建設されたもので、公園とセットで再整備された、いわゆる復興小学校の一つだ。
 
地名及び公園の名前は「坂本」だが、小学校の名前は「阪本」となっている。一部の古地図で「坂本小学」の表記もあるようだが、調べた範囲では地名・学校名とも昔から別の字を使っているようだ。
 
 
 

阪本小学校の外蛇口

阪本小学校にあった外蛇口。参加者のうち若干名が反応を示す。ホースをぶら下げているハンガーまで骨董品に見えてくる。
 
 
 

阪本小学校の呼び鈴

呼び鈴のような非常ベルのような何か。参加者一同、押してみたい衝動に駆られる(が、なんとか我慢する)。
 
 
 

ぐりぐり写真:壁埋設型送水口
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小学校の裏のホテルに本日最初の送水口があった。(ぐりぐり写真: 写真にマウスカーソルを乗せると動かせる)
 
「連結送水管送水口」と表記され、口が二つ付いた送水口が壁に埋設されている。送水口について詳しくは送水口倶楽部さんを参照してもらうとして、基礎的なポイントを挙げておくと、送水口は水が出てくるところではなく入れるところであり、火事の際には消防車(ポンプ車)のホースがここに接続され、建物の高いところや地下街など、消防車のポンプから直接ホースを伸ばして行けないような場所へ水を供給することになる。建物の高さや床面積が一定以上の場合に消防法施行令で設置が義務付けられていて、しかも送水口は双口形と定められている。口は二つだが、内部で逆止弁を経て連結しており、建物内の送水管は1本になっている。
 
なぜ双口形と定められているのか、消防法施行令には明記されていないが、恐らくは複数の消防車がホースを接続し、滞りなく水を供給するためではないかと思われる。(1台の消防車が交代する際にもう1台が水を供給し続ける)
 
 
 

過保護な送水口

送水口は7階以上の建物には必ず設置されているはずなので、その周辺を探せば必ず見つかるはずだ。こちらの送水口はビニール袋で丁寧に保護されている。でも火事の際は邪魔になりそう。過保護ヨクナイ。
 
 
 

スタンド型送水口・採水口

スタンド型の送水口と採水口。送水口は送水管を経て建物の上の方へ、採水口は地下の貯水槽に繋がっている。貯水槽が地下にある場合、そのままでは採水口側に圧力はかかっていないはずなので、採水口から送水口へ水を供給するには間にポンプ(ポンプ車)が入らないとならない(採水口にポンプ機構が付属する場合も多い)。また、送水口は双口、採水口は単口で、区別のためか蓋部分のハンドルの長さにも違いがある。(追記 4/1: Ayaさんよりコメントを頂き、区別のためというよりは、採水口の方が構造的にきつく蓋を閉めるために爪が長くなっているらしいとのことでした)
 
背後に無地のプレートがあるが、これは先代の送水口・採水口の遺構なのだそうだ。古い建物では送水口を含め消防設備を更新することがあり、この写真の場合は壁埋設型の設備だったものを更新し、新たにスタンド型の設備を設置したということらしい。
 
確かこの辺りでAyaさんから、「消火栓や防火貯水槽の蓋によく消防車がデザインされているが、実際に消火栓や防火貯水槽を使うポンプ車ではなくはしご車ばかりがデザインされている」というような話が出た。この件については宿題と受け止め、実際のところとどこへ文句を言うべきかを調査中だ。送水口ウォークの余談編として纏めるつもりなのでご期待を。
 
 
 

単口送水口

道の反対側に出ベソ発見。女性専用の足裏マッサージ用で、利用には予約が必要、というわけではなく、これは珍しい「単口」の送水口とのことだ。
 
 
 

ぐりぐり写真:単口送水口
{“src”:”https://EkikaraManhole.WhiteBeach.org/images/2014.03.30.0/g.jpg”,”width”:”500″,”height”:”378″}

「送水口は双口と定められている」、先にそう書いたが、設置義務のない建物の場合こういった単口の送水口が設置されていることがあるのだとか。(ぐりぐり写真: 写真にマウスカーソルを乗せると動かせる)
 
設置義務が無くても送水口を設置するような防災意識の高い施工依頼主が建てた建物、即ち、しっかりとした建物によく見られるのだそうだ(といっても珍しい)。また、現在では消防車の性能が十分上がっているので、設置義務が無い建物に敢えて送水口や送水管といった消防設備を設置することは殆ど無いと思われる。さらに送水口は規格品なので、わざわざ規格外である単口の送水口を造っている製造会社も今は無いのではないかと想像される。ごちゃごちゃと書いて何を言いたいのかというと、単口の送水口を見つけたらそれはとても珍しく古いものなので、きっとイイ事があるだろう、ということだ。
 
「送水口は双口形」と定めている消防法施行令は昭和36年に制定されているが、これ以前に何か規定があったのかどうかも調べる必要がありそうだ。
 
 
 

注水口

今度は「注水口」と書かれた似たような設備が現れた。この建物は日本橋消防署で、この注水口は消防署の地下にある防火貯水槽に水を入れるための設備なのだそうだ。
 
ここまで送水口(壁埋設型・スタンド型・双口・単口)、採水口、注水口と出てきてもうお腹いっぱいなのだが、驚いたことにまだ公園のある一区画をぐるりと半周しただけだったりする。
 
 
 

日本橋消防署

冒頭の写真。幸運にも訓練で実使用中の送水口に遭遇した。突然謎の一団に注目されて驚く送水口。
 
 
 

日本橋消防署

訓練中の隊員さんも嫌な顔一つせず対応してくださり、消防隊男子の株が急上昇。
 
 
 

日本橋消防署

送水口は毎日磨いているとのことでピカピカ。一方周りの壁が削れているのは日々の訓練の証。実に頼もしい。
 
 
 

壁埋設露出Y型送水口

しばらく進むと鏡面仕様の壁に取り付けられた壁埋設露出Y型の送水口に遭遇。宙に浮いているようにも見える。
 
 
 

電防

筆者はもちろん蓋の人なので、何かネタを探さねばと思っていたら、この蓋なーに?という質問があがった。
 
 
 

電防

「電防」と書かれた小型の蓋。字体も面白い。
 
「電防」とは「電気防食」の略で、金属管の傍に陽極を設置し、防食電流を流すことで管の腐食を防止する技術のことだ。腐食しやすいガス管によく使われていて、「TB」と書かれたガスの蓋はこの設備(ターミナルボックス)を埋設している。と、このくらいの説明はスラスラ出てくる。よかったらこの記事も。
 
この蓋の下にある電気防食設備で何を腐食から守っているのかまでは分からないが、地中に何か金属があり、それを守っていることは確かだ。
 
 
 

中島芳治郎

この辺りのビルの定礎には「中島芳治郎」の名が入ったものが幾つか見つかり、送水口ウォーク参加者の間で、どこの誰だか知らないけれど話題の人物となった。後から調べてみたら、日本橋兜町にある中島クリニックの先代の院長なのだそうだ。
 
 
 

壁埋設露出Y型送水口

壁埋設露出Y型、蓋なし、ちょい斜め、直下に遺構あり。
 
 
 

排気口

ちょっと可愛らしい排気口。白鳥の顔にも見える。
 
 
 

スタンド型送水口

スタンド型の送水口。先に採水口と一緒に出てきたスタンド型の送水口は「水平双口タイプ」だったけど、こちらは「垂直双口タイプ」。コンパクトなので最近の流行りなのだとか。
 
 
 

潜望鏡型送水口?

同じものを逆さに取り付けて潜望鏡のようになった送水口。アーケードに設置されていればアーケード型と迷うことなく言えるけど、これをそう呼んでよいのかどうかは迷うところ。
 
送水口は大きく分けて、壁埋設型・スタンド型・アーケード型の3つに分類できるとのことで、詳しくは送水口倶楽部さんを参照されたし。
 
 
 

潜望鏡型送水口?

横から見ると排水用の蛇口もあった。建物上部への配管も外から確認でき、大サービスの物件。かつては壁埋設型だったらしい遺構も見える。
 
 
 

中島芳治郎

この建物も中島芳治郎さん関連。定礎にある昭和の「和」の字も面白い。
 
 
 

千代田橋

首都高下、楓川跡に架かる千代田橋の隣に巨大な配管設備があった。脇に水道局のテレメーターがあったので、これは水道管だと思われる。楓川は昭和37年に埋め立てられており、この千代田橋は昭和3年に架橋されている。この水道管も同時期に敷設されたのではないかと想像される。この部分のみ地上に露出する形で山型になっており、中央に空気弁らしきものが設置されている。
 
 
 

空気弁

縛られていて中身はよく見えない。結構でかい。
 
 
 

自働洗滌槽蓋

脇に少しそれると自働洗滌槽と同じタイプの2連の下水君蓋があった。下水道台帳で調べてみたら防潮扉付人孔とのことで、日本橋川に繋がっているようだ。というかしばらくぶりに見てみたら下水道台帳がちょっと進化していて驚いた。2/28から新システムになったらしい!?
 
 
 

街燈

東京都中央区(街燈)
 
ここでニアミスした蓋を一つ紹介。日本橋近辺の蓋でこれを忘れてはいけない。「街燈」と書かれていて、都章のようで都章ではない紋章が入っている。地図記号の灯台と同じ形状だが、街燈と灯台、関連は無さそうに思える。都章(東京市章)の誤植という説が有力ではないかと思うが、どうなのだろうか。同じ中央区内には、区の花「ツツジ」と区の木「ヤナギ」がデザインされた街灯の蓋も多数存在する。ひょっとすると同じ系譜なのかもしれない。
 
 
 

街燈蓋の風景

この蓋は昭和通り沿いに何枚か残っており、状態の良いものは江戸橋1丁目交差点、日本橋駅のD3出口近くにある。昭和通りの整備と同時期の設置とすると昭和3年まで遡ることができる。
 
 
この辺りで前編は終わり。中編に続く。
 
 
 
関連リンク
  ●送水口ウォーク・前編(駅からマンホール:2014/04/10)
  ●送水口ウォーク・後編(駅からマンホール:2014/04/21)
  ●消防車特集(余談編1)(駅からマンホール:2014/05/19)
  ●地下式送水口特集(余談編2)(駅からマンホール:2014/06/13)
  ●送水口倶楽部さん
  ●路上散歩備忘録さん
  ●送水口ウォーク まとめ(togetter)
 

この記事へのコメント 4件

  1. EkikaraManhole より:

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